つくりかけラボ関連イベント
つくりかけラボ02 志村信裕「影を投げる」トーク

インスタレーションの新しい種。 プロジェクト空間をどうつくるか

2021年3月27日[土]

開催日時

2021年3月27日[土](非公開)

参加者

志村信裕(アーティスト)

佐藤慎也(建築家、日本大学理工学部建築学科教授、八戸市美術館館長)

進行

畑井恵(千葉市美術館学芸員)

構成・文

白坂由里

インスタレーションの新しい種。プロジェクト空間をどうつくるか

「つくりかけラボ02志村信裕|影を投げる」の終盤、建築家の佐藤慎也を迎えて非公開で対談が行われた。芸術文化施設の建築計画やアートプロジェクトを行うことも多い佐藤とじっくり話すのは、4年前に志村がアーティスト・イン・レジデンスをしていたフランスで会って以来になる。つくりかけラボでの活動を振り返りながら、佐藤が2021年度から館長を務める八戸市美術館との共通点や、志村の制作活動の新たな可能性について、担当学芸員を交えて語り合った。

 

■ 変わっていく美術を受け止めていく美術館に

 

畑井 「つくりかけラボ」(以下、つくラボ)は、2020年の美術館拡張リニューアルを機に立ち上げた、公開制作やワークショップを通じて空間をつくりあげていく新規事業のひとつです。ラボ=実験室だから約3ヶ月の会期中に必ずしも作品が完成しなくてもいいし、失敗も成功も同じように面白いものとして、動きがあっていい。そこに実験している作家がいて、鑑賞者も巻き込まれるなかで「つくる」場所や体験を共有できるしくみを目指しました。

 

佐藤 そこに志村さんを選んだのはなぜですか?

 

畑井 つくラボには3つのテーマがあり、2020年度は第1回の遠藤幹子さんに「コミュニケーションがはじまる」、第2回の志村さんに「五感でたのしむ」、第3回の武藤亜希子さんに「素材にふれる」と設定していました(新型コロナウイルス感染拡大防止のために会期変更)。志村さんの映像作品は、映像の中に止まらない余白や広がりを持っている。プロジェクションの光をスクリーン以外の対象に映して空間を構成したり、ドキュメンタリー的な映像作品ではいろいろな方とお話した関係性を通じて制作されたりと、周りにあるものを捉える志村さんの手つきが「五感でたのしむ」というテーマにピッタリじゃないかと。フランスでの滞在制作を終えてから千葉県に移住されたので、千葉ゆかりの作家さんとして紹介したいという思いもありました。

 

佐藤 志村さんは「素材に触れる」も「コミュニケーション」も全部兼ね備えていますね(笑)

 

志村 2019年にこの話をいただいたときに、外からの要請ではなく、美術館の内側から変えようとしているのが新しいなってまず思いました。それも単発の企画ではなく通年で決まっていて、いろいろなアーティストにバトンタッチしながら、美術館やアーティストの役割が変わっていく予感がしました。

 

畑井 アーティストの創作や表現は常に予想もしないところに行くので、美術館はいつもその後追いだと私は思っています。歴史化されたものを捕まえて変わらないように保存する施設でありながら、展覧会など様々な事業や人との関わりを通して、少しずつ変わっていくものではないかと。

 

佐藤 美術館では、若手作家は個展では取り上げられにくいけれど、教育普及の枠であれば企画が通りやすいという側面がありますね。現代作家が美術館の中で活動を行う入口のひとつになっているのではないですか?

 

畑井 そうですね。新しくなっていく表現をどう捕まえられるか、その際にプロジェクトの場所や時間軸などさまざまな関係性の扱い方を考えるときに、教育普及という枠組みはちょっとした柔らかさがある、フットワークの軽さはあると感じています。

 

佐藤 美術館の教育普及って、展覧会に関連しているものか関連していないものかに大きく分かれ、展覧会を行う学芸員と教育普及専門の学芸員に分かれている館もありますよね。あらためて考えてみるとどうなのでしょう?

 

畑井 教育普及は展覧会のプラスαといった考え方がいまだに少なくないですね。けれど、展覧会主義的な状況が急にそうじゃなくなるかもしれないし、そういう構造の危うさはどこにでもあると思います。

 

佐藤 つくラボの活動は、僕自身が国内外の美術館をリサーチしてきて八戸市美術館で考えようとしているところとかなり重なっていますよ。八戸市美術館はまず、熊倉純子先生(東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科教授)たちを中心に、作品を展示して見せるだけではない、アートプロジェクトをつくるような美術館のあり方が構想されていました。その後に僕自身は、2016年に八戸高専で建築を教えている大学の後輩から講演を依頼されて接点ができました。2011年に八戸ポータルミュージアム「はっち」が開館し、2020年に弘前れんが倉庫美術館ができる予定があったし、美術が変わってきているのに対して、それを受け止める美術館が必要だろうと考えていたときだった。それから八戸市美術館のプロポーザル審査に加わって建築プランを選び、運営検討委員会に参加していたら急に館長の話が舞い込んできたわけなんです。
 八戸市美術館には、つくラボを巨大化したようなジャイアントルームという大空間ができます。カーテンで仕切ると部屋っぽくもなるし、可動式の収納や家具もあります。(図を見せながら)

 

志村 天井高18メートル!

 

佐藤 ワンフロアにあるので、ジャイアントルームで行われているプロジェクトがメインの展示のようにも見えるし、奥のホワイトキューブという展示室で開催される展覧会とジャイアントルームの活動がどう関係するのか/しないのか、11月のオープンに向けていろいろな可能性を考えていて。

 

畑井 すごく面白そう! コロナ禍による社会変動があり、展覧会ができなくなっても教育普及事業としてだったらこれができるといった、何がどうなるのかわからないときに、どこが表で裏かわからない構造で美術館をつくっていこうとしている考え自体に興奮します。

 

佐藤 アートプロジェクトってある意味では演劇寄りだと思うんです。ものの美術は観客が変わっても作品が変わらないけど、パフォーマンスは観客が変わると作品が変わる。いわゆる普通のライブでも観客のノリが変われば出来が変わることがあるように、アートプロジェクトも参加する人が変われば作品は変わる。今回の志村さんのプロジェクトで参加者がつくるスライドも、来てくれる人たちが違えば違うものができると考えたときに、やはり演劇に近いような感じを受けました。つくラボの3ヶ月間は、演劇でいうと稽古みたいな期間というのかな。ジャイアントルームの中でも、そういう演劇の稽古的な時間と場所をつくる可能性はないかなと考えています。

 

志村 演劇でも稽古を見せることってありますしね。

 

佐藤 とはいえ稽古って、最後にできたものが作品であるだろう、という前提があって。理想的には、展覧会の前にジャイアントルームでつくる時間があって、そこから展覧会になるみたいな。ジャイアントルームからホワイトキューブに移っていくという時間の流れの可能性もあるのかなと考えていますね。(続く)

→もっと読む  トークの続きをダウンロード

 

 

プロフィール
志村信裕

現代美術家。1982年東京都生まれ。現在は千葉県を拠点に活動。2007年武蔵野美術大学大学院映像コース修了。2016年から2018年まで文化庁新進芸術家海外研修制度により、フランス国立東洋言語文化大学(INALCO)の客員研究員としてパリに滞在。近年の展示に「志村信裕展 游動」(KAAT神奈川芸術劇場、2021年予定)「生命の庭−8人の現代作家が見つけた小宇宙」(東京都庭園美術館、2020年)、「志村信裕 残照」(千葉県立美術館、2019年)、「六本木クロッシング2016  僕の身体、あなたの声」(森美術館、2016年)など。 

https://www.nshimu.com

プロフィール
佐藤慎也

建築家、日本大学理工学部建築学科教授、2021年4月、八戸市美術館館長に就任。1968年東京都生まれ。1994年日本大学大学院理工学研究科博士前期課程建築学専攻修了。アートプロジェクトの構造設計、ツアー型作品の制作協力、まちなか演劇作品のドラマトゥルクなど、建築と美術、演劇の空間について研究・計画・設計を行う。「アーツ千代田3331」改修設計(2010年)、「アトレウス家シリーズ」(2010年〜)、「としまアートステーション構想」策定メンバー(2011〜17年)、「みんなの楽屋」(あわい〜、2017年、TURNフェス2)、「東京プロジェクトスタディ」ナビゲーター(2018〜21年)など。

Search